日野日出志。
ホラー漫画の大家です。
むかーしホラー漫画ブームがあったとき、ホラー漫画専門雑誌が乱立して、必ずといっていいほど日野日出志や犬木加奈子が表紙でした。ぎょろぎょろと飛び出て血走った目玉が気持ち悪かったなあ。
怖がりなのでそのへんはあんまり近寄らなかったのに、なぜか読んでしまったのが 毒虫小僧 。
怖いんだけど、ほんのり物悲しくて、苦手なジャンルなのに忘れられない作品です。
カフカの変身 がモチーフだと思う。
フランツ・カフカの主人公グレゴール・ザムザは、ある朝起きたらベッドの上で巨大な虫になっていたけれど、日野日出志の主人公日の本三平は、ジョジョに人間じゃあなくなっていきます。
おれは人間をやめるぞ!ジョジョー!!と宣言もしません。つーか不可抗力。
三平少年は人間をやめたかったわけじゃあないのに、(陰気で気持ち悪いけど)心優しい少年だったのに、少しずつ人間から毒虫になっていくのです。
きっかけは、自分の吐いた吐瀉物のなかにいた虫を触ったことでした。
自分の吐いたゲロのなかに虫がいるっていうのも謎。
その虫に刺されて、どんどん体が毒虫小僧になっていく過程がキツい。
ある日巨大な虫になっていたザムザは突然のことにびっくりしたでしょうが、少しずつ体が溶けて頭髪や歯が抜け落ち、指が腐り手足がなくなって苦痛にのたうち回りながら虫になっていく三平少年はびっくりどころじゃありません。
家族は腐臭漂う彼を部屋に閉じ込めつつ世話をします。
人間の殻から脱皮して毒虫小僧になってからも鍵付きの部屋に監禁。
運動不足になっちゃうなあ、と思っているうちに、死んだことにされて葬式までされてしまいますが、まあ実際自分は生きているからいいか、こんな姿じゃ外に出せないししょうがない、と納得。
しかし毒虫小僧が家にいることに耐えられなくなった家族は食事に毒をまぜて殺そうと企みます。
毒入りご飯を食べて苦しむ毒虫小僧。動かなくなった毒虫小僧は土に埋められます。
が、どっこい生きてる土の中。
芋虫スタイルでもりもり土をかき分け大自然へ。家族に疎まれていることがわかったからにはもう家には居場所はありません。
さみしいけど、ひっそり姿を消すことを選びます。
生き物ならなんでも好きな彼は人間はダメでも、他の動物と仲良くなれればいいや、と逆に考えたわけです。柔軟な発想ですね。
しかし、かなしいかな、彼は毒虫小僧でした……
自然の生き物たちにとって、棘や牙に毒を蓄える毒虫小僧は、ただの敵です。
危険生物と仲良くしてくれる物好きはいません。
どこにいっても嫌われ迫害され、追い詰められて、毒虫小僧は下水の汚れた隅を住居としました。
人間から化け物扱いされ、誰からも嫌われるうちに、彼は復讐と殺戮に歓びを感じるホンモノの化け物になってしまうのです。
そうした陰惨な日々を送るなか、ある日、懐かしい匂いを感じます。
人間だった頃の記憶はほとんど無くした毒虫小僧にとって、それは久しぶりの三平少年だったころに嗅いだ匂い……
思わず匂いの方に近付いていくと、そこには三平少年の家族がいました。
殺人鬼となった毒虫小僧になってしまった息子を今度こそ確実に仕留めようと猟銃を構える父親。
懐かしさに向かってくる毒虫小僧を容赦なく撃ちまくる。
満身創痍の毒虫小僧はよろよろと逃げ出し、川へ転落します。
そしてゆらゆらと海へ流れていく……というラスト。
どこか叙情的で、怖いだけじゃない余韻のある物語でした。