初湊かなえ作品読了。
とは言ってもドラマ版を先に見ていたから初読の気がしない。
大筋はドラマと一緒だけど、大筋以外はけっこう差異が大きかった。
そんなわけで原作とドラマを比較しつつ感想を書くので、がっつりネタバレしちゃいます。
ミステリーなのにオチのネタバレもする極悪仕様の記事になるので、未読未視聴の方はもう読まない方がいいかも。
ドラマ見て原作読んだ人にしかわからない記事になってる気がする。
湊 かなえ
講談社
2017-03-15
第1話 親友の死に隠された秘密・・・復讐は十年後に始まった [Amazonビデオ]
2017-04-15
10年前の事故
ドラマでは冬の雪山だったけど、小説では夏の台風だった。
ドラマでは遺体が崖から落ちた自動車の中になかったことや発見が遅くなったことが大きな謎として加えられていたけれど、原作ではふつうに中で死んでいてすぐ見つかった。
事故に謎がないから元警察のジャーナリスト小笠原(武田鉄矢)は登場しない。
登場人物
小説版では、主人公の深瀬和久は地味で痩せている。藤原竜也のような長身ではなく平均身長かやや小さめの雰囲気。藤原竜也くらいカッコよければこんな卑屈にはならなかったんじゃないかと思う。
死んだ親友広沢由樹のキャラクターはだいぶ違う。ドラマでは小池徹平が演じているけれど、原作では穏やかな大男。むしろ鈴木亮平や照英のようなイメージ。
議員の息子村井隆明。ドラマでは三浦貴大が演じていた。小説ではほぼ空気。独身で大物議員の娘と政略結婚もしていない。独身だからもちろん不倫もしていない。
野球好きな谷原康生。ドラマでは市原隼人。小説では左遷されてないし独身。村井の妹との恋愛もない。結婚してないから娘も生まれてない。ななみちゃんが「ふかせー」と呼び捨てにすることもない。
高校教師浅見康介。ドラマでは玉森裕太。小説ではモテていない。モンスターペアレントに難癖つけられない。深瀬を「友達」とも言わない。
原作では村井の妹も村井の妻も登場しない。不倫相手もいない。おかげで村井の存在のうすいこと。ただの金持ち坊ちゃんでしかない。
谷原もただの打たれ弱いふつうのひと。
ドラマ版の方が恋愛や仕事に悩みつつ、複雑な内面を無神経な明るいキャラで覆うという魅力的な人物だったのに。
あさみんも原作ではほぼ空気。飲酒事件はあったけどイジメ描写や恋愛部分がない。あさみんに夢中な女子高生もいない。
ぼっちな深瀬が唯一の親友広沢をなくして孤独だったところから、10年前の事故について「人殺し」と告発されたことがキッカケになり、ただのゼミ仲間だった村井谷原あさみんと奇妙なかたちで友情を育んでいく…ドラマでは、謎の解明も魅力だったけれど、深瀬がぼっちから脱却していく過程が素晴らしかった。
他人を表面的にしか見ていなかった深瀬。
自分のことを理解してくれるひとなんかいない。自分をわかってくれるひとなんかいない。
と拗ねていたけれど、実は自分こそがわかろうとしていなかった。
羨望していたゼミ仲間が困難(不倫、左遷、モンペ)に四苦八苦し、何もかもが順風満帆でないこと。そんなときの愚痴吐き相談相手として自分が選ばれたことで人間関係のステイタスを決めつけていたのは自分だったと発見する。
そういう人間ドラマは、原作ではほぼ描かれていない。
亡き広沢との間にあった友情は丹念に描かれる。
一冊の小説としてのボリュームと最後のオチの衝撃のためには、焦点をボヤかさない方がいい。
ミステリーとして、最後の2ページの衝撃を鮮烈にするために、それは正しかったと思う。
ドラマで、深瀬の罪は分散されたままだ。
直接の原因が深瀬にあったとしても、他のメンバーにも責任はある。そういう描かれ方だった。
分散された罪悪感だからこそ、深瀬は広沢の両親に告白ができたのだろう。
自分の胸に留めることなく友人に打ち明け、遺族に謝罪して罵倒された深瀬の未来は明るい。
汚いおっさんの小笠原という新しい友人もできた。
美穂ちゃん(戸田恵梨香)とおいしいパンを食べながらコーヒーも飲めるだろう。
小説では、深瀬の罪は深瀬しか知らない。
自分が広沢を殺した、と気付いたところで物語の幕はおりる。
ドラマと違って美穂ちゃんと交際が再開する希望もみえず、ゼミ仲間の3人とも薄い関係のままの深瀬。
その深瀬にこの重い事実は受け止められるのか。