7つの短編の感想。
固有名詞の無い奴隷の物語。
今もどこかに存在している、支配される人々。
物理的に虐げること、暴力や権力で抑圧されること、知識や教養や技術を与えられないこと。
奴隷にもわかりやすいものとそうでないものがある。
無自覚な奴隷もいる。
雀
権力者の妻にならなければ舌を抜かれる
いつの時代かどこかわからない村。
主人公のスズメは声を出すことを禁じられている。
長老という絶対権力者の嫁になることを断って舌を抜かれた母親からうまれた子だから。
一夫多妻のしきたりで、権力者が「妻に」望んだら女に断る権利は無い。
断った女は舌を抜かれる。
スズメはうまれながらに舌切り雀なのだ。
しかしそんなスズメに縁談がきた。
村の女は15歳になると嫁に行く。
スズメを「妻に」望んだのは村の長老。
母親を「妻に」望み、断られて舌を抜いた男。
何十人も妻をもち、スズメの同級生の孫までいる男。
女は奴隷。
泥
テロ集団に拉致監禁された女子高生たち
泥沼に囲まれた廃屋に集められた女たち。
ある日突然連れてこられ、閉じ込められた。
逃げようとしたら殺される。
人質として役立つうちは生かされていたけれど、雨がやんだらどうなることか。
見目好い処女はどこかに嫁にされるらしい。
その他は奴隷にされるらしい。
女たちのなかで序列を作ろうとするものがあらわれる。
でも、どうなるのか誰にもわからない。
泥沼に足を踏み入れたら沈むかもしれない。
銃弾に倒れるかもしれない。
女は奴隷。
神様男
地下アイドルとファン
主人公は中年の母親。
2人の娘を育てるシングルマザー。
長女はアイドルになる夢を抱き上京した。
事務所に所属し舞台に立っているが、なかなか芽は出ない。
ひとり親の家庭の生活は楽ではない。
苦労して貯めたお金は長女のレッスン代に消えてしまった。
長女の出演するコンサートでアイドルファンの男と言葉を交わす。
ファンの応援がなければアイドルは成立しない。
実力も容姿もパッとしない娘に人気はつくのか。
アイドルは奴隷？
ファンが奴隷？
アイドルビジネスの奴隷は誰だろう？
希望に貯金を吸い取られた母親か。
ＲEＡＬ
母親と娘
ブラジルの空港に降り立った中年女性が主人公。
鈍感でときに神経質な女。
喪失した過去を引きずって生きている。
ブラジルは富裕と貧困がくっきりと鮮やか。
カラフルな原色のファッションと同じく教養も生活レベルも差がある。
曖昧な日本で曖昧にしていたことが、ブラジルの鮮やかな闇に照らされる。
夢の中で娘によく似た子が走り去る。
くびきから逃れるように。
母親は娘を奴隷のように扱っていたのかもしれない。
ただセックスがしたいだけ
炭鉱労働者の糧
炭鉱で働く。
そこには何の楽しみもない。
しかし厳冬に川が凍りつくと氷上を渡って女がやってくる。
女は食料やモノと引き換えに身を任せてくれる。
それだけが楽しみになる。
ただセックスがしたいだけ。
性欲の奴隷。
労働力を搾取される奴隷。
告白
織豊時代後期から江戸時代初期の奴隷貿易
日本から遠い外国へ旅をする。
長い船旅。
そこで出会った老人も日本人なのだと言う。
彼はその人生を告白する。
外国に売られた日本人奴隷。
山羊の目は空を青く映すか
Do Goats See the Sky as Blue
政治犯収容所で生まれたこども
そこはどこかの収容所。
高い壁に囲まれて生きる囚人。
主人公は鎖の重さを自慢するような模範的囚人だった。
虐げられた囚人たちの中で自分たちは上の方だと思っていた。
そこで生まれそこで育ったから、他の世界を知らなかった。
しかし、その生活は唐突に終わりを告げる。
少年は何も見ないで永らえるより、見て最期を迎えることを選んだ。
自由を許されない奴隷。
