久しぶりの桐野夏生本。
『夜また夜の深い夜』
タイトルが良い。
長らく積読本だったけど、読みはじめたらあっという間に読了。
そういうもんだよね。
マイコは赤軍派海外逃亡犯の娘だと予想して読んでいたけど、見当違いだった。
逃亡は逃亡だけど。
最果ての地で生き抜く女たち。
この世界には、ゴキブリやカエルを食べて生をつなぐ人間がいる。
比喩ではなく、泥水を啜って渇きを癒す人間がいる。
真実を話してはいけない。
過去に追いつかれてしまうから。
何も知らされないままのマイコは漫画に本当より本当の世界を見る。
けれど、現実は漫画のリアリティを容易に超えていく。
ひととき身を寄せた架空の楽園は、マイコにはなまぬるかったのだろう。
地下の地下、蟻の巣のようにうねる穴ぐらを駆け、絡み合い笑いさざめく3人が楽しい。
マイコとアナとエリス。
悪いことばかりしていても、彼女たちには芯がある。
社会的ルールには背いても、自分のルールには背かない。
そこに爽快感がある。
あからさまに毒なマイコの母親を憎みきれないのも、偽りだらけの中にたしかな真実のカケラがあるからだと思う。
日本はファジーな人間にはつらいところ。
解説の金原ひとみは、日本の空気が窮屈だったらしい。
ファジーな人間だったのだろうか。
でも、そんな日本を責めるのはお門違いというものだ。
日本の安全や安寧は、漫画のような平和ボケした文化は、七海やマイコのような異分子を排除することで保たれている側面がある。
退屈で真面目な働き蟻たちの収穫した甘い蜜を奪っておいて、つまらない奴扱いするのは違うだろう。
マイノリティーだからといって幸福になれないのはおかしい。
でも、マイノリティーが特別に素晴らしいというわけでもない。
金原ひとみの作品は読んだことがないけれど、解説に嫌な気分になった。
日本の「普通」に馴染めないのがまるで「特別」な人間の証明のような。
「ふつう」があるからこそ特異な存在が特別でいられるのに。
誰かが不幸だからといって、別の誰かが幸福であることを後ろめたく思う必要はない。