登場人物を紹介しつつ、ネタバレ有りで感想を書いていきます。
物語の核心もオチも生死もぜんぶ書いちゃうので未読の方はネタバレなし版の感想へどうぞ→無痛 2 第5番 久坂部羊 ネタバレなしの感想
久坂部羊作品はいつも何か問題提起がある。
今ドラマ化されている二作でいうと、破裂は「老人の終末医療」無痛は「刑法39条(責任能力の有無で刑の軽重が変化)」
今作、無痛の続編である第5番は「健康信仰」への懐疑か。
「死んでもいいから健康でいたい!」っていう冗談がある。
目的と手段が逆転する現象のひとつかもしれない。
結局いきつくところは「死生観」であり「どう生きたいか」になってくる。
登場人物ごとにネタバレ感想
菅井憲広…皮膚科の地位向上を目指す医師。仕事熱心。プライドが高いと言われるが妻には甘い。だんだん錯乱していく。QOL?知らんね。ヨーグルト大好き。腕一本になって死亡。
千田治彦…菅井の部下。まったり皮膚科が好きだったのに今回の一件で無理矢理医師として一皮剥けさせられた。きっと名医になるに違いない。
為頼英介…観察するだけで病気や殺人の気配(犯因症)がわかる天才医師。しかし本人も言うように診断ができるだけ。適切な治療も対応もできない。鈍感。前回に引き続き偶然助かる。
高島菜見子…前巻で息子を誘拐され殺されかけた母親。しかしその息子を誘拐したイバラの後見人になった。息子を預けてデートしたりやりたい放題の女。息子の意見も聞かずに恋人のいる海外に移住する計画まで立てている。
南サトミ… 元気いっぱいで国際弁護士を目指していると希望に満ち溢れた再登場を果たす。が、その後は坂道を転げ落ちるような転落。毒死。著者はサトミに恨みでもあるのか。
三岸薫…グロテスク画家。目をみはるような世紀の美女だが、化粧を落とすとブスになる。つまり美人画が得意。顔の皮を剥がれて死亡。
笹山靖史…三岸をバックアップする画廊オーナー。プライベートでもバックアップ。躊躇のない思い切り良さがある。女性的なハスキーボイス。逮捕。
北井光子…三岸の弟子。あからさまに怪しい。火曜ドラマなら確実に真犯人役。焼死。
フェヘール…怪人。かつ悪の組織のマッドサイエンティスト。
ヘブラ…怪人。かつ悪の組織の黒幕。肖像画出演が怪奇小説っぽくてニクイ。
犬伏利男…ルポライター。名前からしてわかるように犬のように嗅ぎ回る。勘違い。死亡。
イバラ…人間臭くなっている。刑務所やその後の生活で人間的成長をはたした。それだけに前巻の怪物じみた無気味さは減少。周囲にいいように利用される憐れさがきわだった。最期はイバラとしてはハッピーエンドなのかもしれない。
白神陽児…死んでると見せかけて生きていた。あんなバレバレの工作に騙されるのは為頼先生くらいだろう。焼死。
殺された医師たち…問題有りとされている理由が緩い。休暇や利得を求めるだけで悪徳医師扱いされる風潮への著者(医師作家)の皮肉だろう。焼き殺された医師が特に気の毒。一番悪くないのによりによって一番苦しそう。
キーワードと結末
『新型カポジ肉腫』…新種のヘルペスウィルスによる皮膚腫瘍。黒い餅のような病変。痛みはない。内臓や脳に転移すると死に至る。致死率は20パーセント~60パーセント。特定のヨーグルトに含まれる乳酸菌の影響で発病する。治療しようとすればするほど悪化する。放置しても死ぬことがあるが、何もしないほうがマシ。
『メディカーサ』…世界の健康と医療をコントロールする医師集団。WHOによる豚インフルエンザのパンデミック宣言も彼らの陰謀のせいだった!鷹の爪団より恐ろしい悪の組織。世界を裏から支配するフリーメーソン的存在。その全貌は謎につつまれている。ひょっとしたらマボロシだったのかも?
『診える眼』…為頼先生は病気や予後だけでなく余命まで診える。自分の余命が僅かなことも見えてしまう。何が原因でどうして死ぬのかは不明ってなんじゃそら。しつこい女から逃げたい心理がそんな診断を下したのではないか。
『守健奴』…守銭奴の健康バージョン。金銭の奴隷になるように健康の奴隷になることを言う。金銭も健康も人生を謳歌するためのものなのに、主客転倒しがち。
性的な?名場面and迷場面
為頼先生の金玉にぎり…斬新。第5番も是非ドラマ化してほしい。この場面が見たい。西島秀俊はそのままでも伊藤英明は別人になっちゃうと思うと残念。是非西島秀俊に伊藤英明の金玉を握っていただきたい。
イバラの脱童貞…世の中にはいろんな性嗜好があるってことか。痛みを知らないイバラだけど、快感も知らなさそう。殺伐としている。
為頼のラブシーン…意外に場所や雰囲気に流されやすい男。ハニートラップにも簡単に引っかかりそう。
夫婦の営み…セックスレスはこんなタイミングで解消されるのか。
サトミの不純異性交遊…サトミの不幸を上塗りする描写。薬の影響?なんでああなったのかまったく不明。ただただ気の毒。
内容紹介
創陵大学准教授の菅井は患者の黒い肉腫に啞然とした。エイズに酷似するウイルスが骨を溶かし数日で全身に転移、意識障害で死に至らしめる。あらゆる薬が効かず数カ月で日本中にこの「新型カポジ肉腫」が多発したが国は無策で人々は恐慌した。一方ウィーンで天才医師・為頼がWHOの関連組織から陰謀の勧誘を受ける。ベストセラー『無痛』の続編。
内容(「BOOK」データベースより)
神戸の住宅地での一家四人殺害事件。惨たらしい現場から犯人の人格障害の疑いは濃厚だった。凶器のハンマー、Sサイズの帽子、LLの靴跡他、遺留品は多かったが、警察は犯人像を絞れない。八カ月後、精神障害児童施設の十四歳の少女が自分が犯人だと告白した、が…。外見だけで症状が完璧にわかる驚異の医師・為頼が連続殺人鬼を追いつめる。